東京地方裁判所 昭和57年(ワ)8115号 判決 1984年4月24日
原告 今井晴恵
<ほか二名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 岩渕秀道
右訴訟復代理人弁護士 羽渕節子
被告 田村健二
<ほか一名>
右被告ら訴訟代理人弁護士 水谷勝人
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告田村健二は、原告今井晴恵に対し金五〇〇万円、原告中村民恵に対し金二〇〇万円及び右各原告に対し、右各金員に対する昭和五七年七月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を、
2 被告田村ナカは、原告吉田勝彦に対し金五〇〇万円及びこれに対する昭和五七年七月九日から完済まで年五分の割合による金員を
それぞれ支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 被告ら
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告田村健二は、その所有にかかる東京都中野区中野六丁目一六番地三所在木造瓦葺二階建居宅一棟一階三二・六六平方米、二階二三・九六平方米のうち北側半分を昭和四五年ころから原告今井晴恵に、南側半分を昭和五五年三月二一日から原告中村民恵に賃貸し、右原告らはそれぞれ右各建物部分に居住していた。
被告田村ナカは、その所有にかかる右同所同番地七所在木造スレート瓦葺二階建居宅一棟一階一六・五平方米、二階一六・五平方米を昭和四七年五月ころから原告吉田勝彦に賃貸し、同原告は右建物に居住していた。
2 昭和五六年四月一二日午前三時ころ右各賃借建物と同一敷地内にあった別棟の建物で被告田村健二の所有居住する建物から出火し、延焼により原告ら居住の右各賃借建物は全焼した(以下「本件火災」という。)。
3 本件火災は、被告田村健二の居宅の茶の間中央の堀ごたつの中にあった電気ごたつから出火したもので、被告田村健二の居宅と原告らの賃借家屋とは、密着して建築されていた。
4 被告田村ナカは、被告田村健二の母であるが、高齢のため被告田村ナカと原告吉田勝彦間の前記賃貸借に関し、賃貸家屋の修繕、時には、賃料改訂、賃料の受領などを被告田村健二が被告田村ナカに代って行なったこともあり、被告田村健二は、被告田村ナカの賃貸借契約上の債務の履行補助者であった。
5 被告らは、賃貸人として賃借人たる原告らに対し、賃貸家屋を使用収益させる義務があり、その作為又は不作為により賃借物件の使用収益を不能ならしめたときは、賃貸人として債務不履行責任を負うべきである。原告らの賃借家屋と被告田村健二居宅とは密接して建てられていたのであるから、被告居宅に火災等が発生すれば、その結果賃借家屋の使用収益は不能となることが明らかであるから、このような場合賃貸人としては、賃貸家屋のみならず、自らの居宅についても賃貸人として右のような事故発生を防止すべき契約上の義務があるというべきところ、本件火災は、被告田村健二が自宅堀ごたつに対する注意を怠った結果発生したものであるから、被告田村健二は、賃借人である原告今井晴恵、同中村民恵に対し、賃貸人としての債務不履行責任として同原告らが本件火災によって被った損害を賠償すべきであり、被告田村ナカは、履行補助者である被告田村健二の過失により原告吉田勝彦の賃借家屋の使用収益が不能となったものであるから、同原告に対し、同原告が本件火災により被った損害を賠償すべきである。
6 本件火災により、原告らは賃借家屋に保有していた家財道具、衣類等の動産を焼失し、その価額は、
原告今井晴恵分 金一五七七万九〇〇〇円
原告中村民恵分 金三七五万六〇〇〇円
原告吉田勝彦分 金二〇五一万八五〇〇円
に達する。
7 よって債務不履行による損害賠償請求権に基づき、前記損害のうち、
(一) 被告田村健二に対し、原告今井晴恵は金五〇〇万円、原告中村民恵は金二〇〇万円及び右各金員に対するそれぞれ訴状送達の翌日である昭和五七年七月一〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の
(二) 被告田村ナカに対し、原告吉田勝彦は金五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五七年七月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の
各支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1及び2の事実は認める。同3の事実は否認する。同4の事実中被告田村ナカが高齢であり、被告田村健二の母であることは認めるが、その余は否認する。同5の事実中本件火災が堀ごたつから出火したとの点及び被告田村健二に過失があったことは否認する。賃貸人たる被告田村健二が原告らに対し、賃貸借の目的物件ではない自己居住家屋について、賃貸借契約に基づく債務として原告ら主張のような義務を負うとの主張及び本件火災により原告らに生じた損害について、被告らが債務不履行責任を負うとの主張は争う。同6の事実は不知。
理由
原告らは、本件火災によって原告らが賃借家屋内に保有していた家財道具、衣類等の動産が焼失したことによる損害を、家屋の賃貸人である被告らの賃貸借契約上の債務不履行による損害として被告らにその賠償を求める。賃貸人は、賃借人に対し、賃貸物件を使用収益させるべき義務を負い、賃貸人がその責に帰すべき事由によりその債務を履行しないときは、その不履行が原因で、その結果として生じた損害を賠償すべき義務を負う。すなわち、損害賠償義務の発生原因として債務不履行と損害との間に因果関係の存在が必要である。しかし、原告らが本訴において主張する動産類焼失という損害は、被告らが原告らに賃貸家屋を使用収益させていた間に発生した本件火災により生じたものであって、被告らが賃貸家屋を原告らに使用収益させるべき債務を履行しなかったことが原因で、その結果として生じたものということはできないから、原告らは火災発生につき不法行為責任を負うべき者に対し、その賠償を求めることは格別、家屋の賃貸人である被告らに対し、債務不履行による損害としてその賠償を求めることはできないというべきである。
よって原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 白石悦穂)